| [ アジアの友INDEX|今月号目次|前頁 | 次頁 ] 二度の滞日と日韓新時代 (2/3) 大学教授が、いわば直行便で大使になった例は、特にこういう大事な国で大使になったのは、初めてでございます。韓国は世界中で150前後の大使館を持っております。組織、予算、キャリアの数で、日本が最高です。私は14代目として2年間大使を経験いたしましたけれども、私の前の13人は、ほとんど大物の政治家でした。中には、ナンバー2レベルも何人かいました。誰といえばすぐわかるような人たちです。キャリア外交官、40年以上の超ベテラン外交官も4人ほどいました。私は大物政治家のようなパワーも無い、ベテラン外交官のような知恵も無い、1人の大学教授でした。最初、赴任したとき、新聞記者から、「なぜ、あなたが選ばれたのか」という質問をよくされましたが、私もその理由は正確には知りません。私の推測ですが、1998年、金大中大統領の日本訪問のエピソードを、皆さん覚えていらっしゃると思います。そのとき私は、現職の総理大臣と国会議長と共に、特別随行員という形で同行いたしました。なぜかと言いますと、1998年という年は、日韓関係に於きまして、非常に意味のある、画期的な年です。学者の中には1965年が国交正常化の年であれば、1998年は第2の正常化だということで、98年体制という言葉を使っている人もいます。それはやはり金大中大統領の決断によるパートナーシップ宣言です。みなさんもそのパートナーシップ宣言の内容をお読みになったと思いますが、2〜3ページの非常に簡単な文章ですが、内容は非常に画期的なものが入っています。そのメッセージは、過去直視、未来志向です。過去を直視し、未来を志向するということなのです。 韓国では、いまだに、ブラント・モデル、即ち、ブラントのように、ドイツが過去の歴史に対して謝罪したように、なぜ日本が出来ないのかというふうに求めている人もいます。私は彼らに対して、それは当時のドイツと日本との違い、ヒットラー体制と天皇制の違い、色んなことを説明しながら、そのときはまだ日本を弁護する立場に立っていました。村山談話の内容は、今の日本の現状で望みうる良質の歴史観だから、ここで区切りをつけて未来に向かっていこうということが私の主張でした。皆さんご存知のように、村山談話は、主体と客体がはっきりしていません。それを日本と韓国を入れて文章化し故小渕総理と金前大統領が合意したものが、パートナーシップ宣言です。 ![]() その第一の実践課題が、文化交流でした。日本の大衆文化を韓国の市場に公開する。これは普通の日本人から見れば当たり前のことなんです。空気のように思うかもしれませんけれども、当時の韓国のリーダーとしては、これは英断でした。ほとんど、絶対多数の国民が日本の大衆文化の韓国への開放に反対しました。その理由は、文化は単なる文化ではなく、文化産業の問題、経済力です。日本の文化産業の中でアニメーションや漫画の競争力は世界一です。皆さんご存知ですか?日本も戦前にありましたが、韓国も70年代80年代に禁じられた書物がありました。禁書はそれが開放されると同時に読まれなくなるものです。禁じられるから読みたがるんです。当時一部では、あまりにも競争力の高い日本の文化産業を開放した場合、これは判定負けであるどころかKO負けである。あるいは文化植民地になるという危機意識もありました。そういう反対論者に対して、私は次のように説得いたしました。文化交流というのはある特定の時点での優劣の問題ではない。より長い視野でお互いに学びあう、一つの学習のプロセスであると。もう少し長い目で見ようじゃないかと。我々も、我々の一部の祖先は日本の江戸初期までカルチュラルギバー(cultural giver)の立場にあった人もいたと。そこで私は、李退溪先生と山崎闇斎先生との知的な交流の例をあげました。山崎闇斎先生の初期の思想は、李退溪先生の思想に多くの影響を受けました。ところが、江戸中期は、韓国が日本から産業化・近代化その他で非常に多くのことを学びました。文化交流というのはこんなものであると。もう少し、過去・現在・未来という長い目でお互いに学ぼうじゃないかと。 政治的な決断にはいつもリスクが伴うものです。賛否両論があるわけです。私は、今、暫定的に評価しても開放してよかったと思います。幸いに、日本の『ラブレター』、韓国のアクション映画『シュリ』が、共に100万以上の観客を集めました。これは一つの例に過ぎません。私は大使になって、密かにビデオを借りて『ラブレター』を見たんですが、私はあんまり面白くなかった。私はむしろ『ラブレター』よりは時代劇を好むんです。『シュリ』も、どうもアメリカを真似しているようでそれほど深い印象はないですけれども、今の若い者は面白いから見ると言うのです。又、今は3日に1回ぐらい、韓日・日韓の色んな文化行事が開かれております。数え切れません。 韓国の文化に関して言えば、今まではヨーロッパではそのアイデンティティーが知られていませんでした。 中国の一部かあるいは日本の 一部であるといったような誤解を受けたこともありました。しかし、約5年前から色んな文化祭に韓国の作品がかなり高い評価を受け始めました。これは日本とも違う中国とも違う、韓国人独自の魂があると。フランスを中心として非常に高い評価が出ています。韓国ではそれを韓国文化のルネッサンスと言って、今、文化のブームが盛り上がっております。日本と韓国が文化交流をしたのは本当に適切な決断で、私は2年間現場でその実現に献身してまいりました。 ![]()
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